森林総合研究所関西支所研究情報 No.27 (Feb. 1993)
新語紹介
最近ランドスケープエコロジーという言葉を時折耳にするようになりました。英語を直訳する形で景観生態学と呼ばれることがあります。しかしこれは誤解を招きやすい用語と言えます。というのも,「景観」は通常,「風景外観,ながめ」または,それらの「美しさ」という意味で用いられます。これに対し生態学は,生態系を構成する生物的・非生物的要素(気候,地形,土壌有機養分等)の間のダイナミックな相互関係を扱う学問です。両者を組み合わせれば,風景外観がいかに形成されるか,その過程(例えば,あるシイ林の外観的遷移過程)を明らかにする科学となるでしょう。しかしこれでは,ランドスケープエコロジーと従来の生態学との間に,それほど違いがあるとは言えません。ではランドスケープエコロジーはどのような特徴を持っているのでしょうか。従来の生態学は対象の生態系を一様なものとして扱い,異質な部分(例えば土地利用形態,植生などの違い)との相互関係については,系外からのあるいは系外へのインップト・アウトプットとして処理されてきました。しかし,ランドスケープエコロジーでは対象の生態系全体が異質の部分で構成されています。例えば,農耕地の中に防風林,道路,河川・水路等が散在するランドスケープ,あるいは木材生産目的の一斉人工林の中に林道,渓流,天然林等が散在するランドスケープなどです。
こういった異質な部分の「分布のパターンや面積が,対象の生態系全体の構造や機能にどう影響するか」を明らかにするのがランドスケープエコロジーです。例をあげれば,広葉樹天然林が主要な生息場所である希少種の生息数や個体群の構造と,ランドスケープ(島状に残された天然林の面積や形状,天然林間の距離,天然林と人工林の境界の距離・形状,道路による生息域の分断等)の関係を明らかにすることがランドスケープエコロジーと言えます。人間が自然に及ぼす影響が大いに問題視されている現在,このようなアプローチは一定地域の生態系に課せられる人為インパクトを最小限に抑えつつ地域を有効に利用するための ecological planning において効力を発揮することが期待されます。
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