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森林総合研究所関西支所研究情報 No.38 (Nov 1995)
[研究紹介2]


マツノマダラカミキリの幼虫は昼と夜の長さがわかっている?

昆虫研究室 上田 明良

植物や動物が昼と夜の長さとその変化で季節を感じとり,開花・繁殖・移動の時期や成長を調節していることは古くから知られています。これは生物の光周性といわれ,キクに夜間照明を当てて開花を遅らせる,いわゆる電照菊はこれを利用した方法のひとつです。昆虫でも様々な種で光周性が知られていますが,真っ暗な?マツ材の中で生活するマツノマダラカミキリ(以下マダラ)幼虫は昼と夜の長さがわかるのでしょうか。実は人工飼料を用いた飼育実験でマダラに光周性があることがわかってきました。マダラはマツ材線虫病の運び屋として非常に悪名高い害虫ですが,こういったことを調べることで弱点がみつかるかもしれません。

表-1. マダラの成長と季節的環境変化
季節 夏→秋 春→夏
日長・気温 短日高温 短日低温 長日高温
成長段階 成長期→休眠 休眠→
休眠消去
休眠消去
→変態期
発育ステージ 卵→成熟幼虫 成熟幼虫 成熟幼虫→
蛹→成虫

日本産のマダラは暖かな恒温条件下で飼育してもいつまでの幼虫のままで,成虫になりません。これは成熟幼虫の段階で休眠するためで,眠りから覚めて休眠消去するには冬の低温が必要です。そしてその後の高温で蛹・成虫へと変態し,6~7月にまるで示し合わせたかのように一斉にマツ材から脱出します。マダラの成長と季節的な環境変化を表-1に示しました。

[Photo]
写真-1. 人工飼料飼育
(右下にマダラ幼虫が見える)

マダラを人工飼料を用いて(写真-1)様々な温度・日長条件下で飼育した結果,成長期に短日下または20℃以下で飼育すると「秋」を,休眠消去から変態期に長日高温下で飼育すると「春」を感知することがわかりました。また,故木村重義さん(元森林総研東北)の研究で,10~15℃の低温を2ヶ月間経験することで休眠から覚めること,すなわち「冬」を感知することがわかっています。恒温器内での飼育条件で「秋・冬・春」を表現し,それぞれの条件の経験の有無と羽化率すなわち休眠から目覚める割合の関係を表-2に示しました。

表-2. 各件の経験の有(○)無(×)と羽化率の関係
試験区 秋の条件a
(卵~成熟
幼虫)
冬の条件b
(成熟幼虫)
春の条件c
(成熟幼虫
~成虫)
羽化率d
×
× △秋期間長に相関
× ○秋期間長い
△秋期間短い
× × ×
× ×
× × ×
× × × ×? (予測)
a○:25℃短日(10時間照明14時間暗黒)または,18・20℃
   長日(16時間照明8時間暗黒)。×:23・25℃長日
b○:10・15℃全暗2ヶ月。×:秋から直接春の条件へ。
c○:25℃長日。×:25℃短日
d○:羽化率80%以上,△:30~80%,×:30%未満

試験区Aは野外条件と最も近く,ほぼ100%が羽化しました。試験区Cでは日長条件の変化だけで36~78%羽化しました。また,試験区Dでは秋の条件が長日高温下5ヶ月間のとき羽化率は51%でした。試験区Fは日長条件だけを野外と逆にしたものですが,羽化率は33~56%でした。このようにマダラの休眠とその消去には日長・温度条件が深くかかわっていることがわかります。こういった日長と気温の2重のチェックをとおして季節の移り変わりを確実にとらえて,翌年初夏に羽化すると考えられます。

では,ガラス瓶内での人工飼料飼育ではなく,実際の丸太を用いての試験ではどうでしょう。実はまだこの試験はしていません。材内でも日長に反応すると思いますが,今後の課題です。


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